映画『箱の中の羊』を鑑賞しました。
カンヌ国際映画祭に出品された、是枝裕和監督の作品。評価はさまざま。決して好意的な評価ばかりではない。
鑑賞しようか、やめておこうか… ちょっと迷いました。でも、評価がわかれているからこそ、自分はこの映画を観てどう思うのかが気になって。
そして、実際に鑑賞してみると、心に響くものが確かにあって、観てよかったと思いました。

是枝監督の作品だから――どうしても高まってしまう期待
是枝裕和監督の作品が好きです。
『誰も知らない』『そして父になる』『万引き家族』『ベイビー・ブローカー』『怪物』
どれも好きな作品で、映画館で鑑賞したときの記憶がいまも残っています。
だからどうしても、期待は高まってしまう。一方で、「是枝監督の作品にヒューマノイド? 」という違和感も。そして、さまざまな評価コメントを目にして…
少し複雑な思いを抱きながら、映画館へ足を運びました。
ストーリーとキャスト
映画の感想をお伝えする前に、この映画のストーリーとキャストを簡単にご紹介します。
ストーリー
息子を亡くした夫婦、建築家・音々(おとね)と工務店社長・健介。あるきっかけで、息子・翔(かける)と同じ姿をしたヒューマノイドを迎え入れることになります。
ヒューマノイドを迎えた日、息子がかえってきたと喜びを隠さない音々と、戸惑いを隠せない健介。はじまった新しい家族としての時間。夫婦それぞれの感情にも少しずつ変化が。そして、明らかになっていく、亡くなった息子へのそれぞれの想いと抱えてきた感情。
そのような中、ヒューマノイドの翔は、ほかのヒューマノイドたちとつながり、ある行動を起こすことに。
キャスト
妻・音々を演じるのは綾瀬はるかさん。夫・健介を演じるのは千鳥の大悟さん。この異色の組み合わせに、鑑賞する前は「どうなんだろう?」と思いました。特に大悟さんは、どうしてもお笑いタレントとしてのイメージが強くて。
ところが、大悟さん演じる健介は、普段の大悟さんそのままのよう。それなのに、違和感がない。綾瀬はるかさんと夫婦であることも、「こんな夫婦いるよね」と思わせてくれました。
綾瀬はるかさんは、「人はなぜラブレターを書くのか」に続いての母親役。息子を亡くし、ヒューマノイドを迎え入れる。そんな母親の心の機微が伝わってくる繊細な演技でした。
ヒューマノイド・翔を演じるのは、桒木里夢(くわき りむ)さん。200名以上のオーディションから抜擢され、これが映画初出演だそう。ヒューマノイドらしい表情や佇まい。その演技に見入ってしまいます。
そのほか、音々の顧客夫婦に角田晃広さんと野呂佳代さん、音々の母親に余貴美子さん、妹に清野菜名さん、健介の工務店で働く古株の職人に田中泯さんなど、実力ある個性的な俳優さんがそろっています。
映画を観て感じたこと
この映画を観てどう感じたか。
なかなかうまく言葉にできないのですが… 印象に残った場面を思い浮かべながら、綴ってみようと思います。
ヒューマノイドと共に暮らす、少し先の未来
突然亡くなった家族。時間が経っても続く喪失感。それを埋めてくれるヒューマノイド。少し先の未来に実現するかもしれない、そんな家族のありかたをこの映画はみせてくれます。
ヒューマノイドに向ける愛情と葛藤。良いことだけではないことも丁寧に描かれていて、「実際にヒューマノイドと暮らすとこんな風なんだろうな」と、想像できました。
一方で次のような疑問が。
――人間はヒューマノイドに何を望むのか?
――姿かたちが同じであればいいのか。感情を持ち心を通わせることまでを望むのか。
――そして、果たしてヒューマノイドは感情を持ち、人と心を通わせることができるのか。
音々と健吾がヒューマノイド・翔と暮らすなかで、想いや接し方が変化していく様子をみながら、そんなことを考えていました。
この問いの答えは、映画のなかで明確に示されてはいません。
問いの答えを見つけるヒントは、タイトル『箱の中の羊』にあるのかもしれません。
『箱の中の羊』というタイトルが示唆することは?
映画の公式サイトには、タイトルの『箱の中の羊』は「星の王子さま」の「一節」から着想されたと記載されています。
砂漠に不時着した飛行士が、王子さまから羊の絵を描くように頼まれる。でも、何度描いても満足させられない。そこで「箱」の絵を描き、「君の羊はこの中にいる」と伝える。すると、王子さまの顔がパッと輝き、「ぼくの欲しかったのはこれだよ!」と。
この一節は、「大切なことは、目に見えるものではなく、見えないものを想像する力」だと示唆しているように思います。
この映画における”箱”とは?
それは、音々と健吾が暮らす”箱”のような家なのかもしれない。ヒューマノイドの翔なのかもしれない。もっと多くの抽象的なものなのかもしれない。
そんなふうに、映画を鑑賞しながら想像力が掻き立てられていきます。
観たあとに残るモヤモヤ
この映画が投げかけてくる「問い」。その答えは、はっきりとは描かれず、あいまいなまま。
だからこそ、想像力が掻き立てられる ――それを楽しめるかどうか。
「難しい映画だったなぁ」とか、「何を伝えたいのかわからないなぁ」とか、そんな感想を持つ方も多いと思う。
実際に私も観終わったあと、少しモヤモヤした気持ちに。
特に、ヒューマノイドの翔がほかのヒューマノイドたちとつながって、行動を起こす最後の場面。ここにいたる過程が詳細には描かれず、唐突感があって、消化不良のまま映画館をあとに。
でも、観終わって少し時間が経つと、いろいろな考えが思い浮かび、想像をめぐらしてみる。そんなふうに、余韻を楽んでいます。
『箱の中の羊』は少し先の未来を描きながら、私たちの想像力を掻き立てる映画。
少しモヤモヤは残るけれど、それも含めて心に残る作品でした。
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