「湯を沸かすほどの熱い愛」「浅田家!」で知られる中野量太監督の最新作「兄を持ち運べるサイズに」を鑑賞しました。
原作は、作家・村井理子さんのノンフィクションエッセイ「兄の終い」。
映画では、村井理子さんを柴咲コウさん、兄をオダギリジョーさん、そして兄の元妻を満島ひかりさんが演じています。
亡くなった兄の“あとしまつ”を担うことになった妹と、その周囲の人たちが織りなす物語。テーマは重いはずなのに、観終わったときに残るのは、あたたかい余韻でした。

「家族が亡くなったあと」を描くドラマ
この映画は、残された人がどう生きていくのか――そんな普遍的な問いを投げかけます。
兄への憎しみや失望、どうにもならなかった過去。それでもどこかで愛している気持ちが消えない。そんな“家族の複雑な想い”を、中野監督らしいユーモアと温度感で描いています。
苦笑いも生まれ、ときに胸が締め付けられ、そして最後は希望を感じる。監督の過去作が好きな方には、きっと刺さる作品だと思います。
地味で不器用な主人公を演じる、柴咲コウさんの新境地
これまでクールで凛とした役が多かった柴咲コウさん。ところが今回の彼女は、どちらかと言えば“地味で、普通の人”。派手さのない外見や物静かな佇まいが、とても自然で好感が持てます。
兄への複雑な感情に揺れながらも、淡々と、でも確実に前に進んでいく姿は、静かな強さを感じさせます。心が動いた瞬間を、一つひとつ丁寧にすくい上げるような表情や語り口に、私自身も気づけば感情移入していました。
柴咲コウさんの新たな魅力に出会える作品です。
ダメな兄、だけど憎めない――オダギリジョーさんのハマり役
そして何より印象に残るのが、オダギリジョーさん演じる兄。生前の生活ぶりは「ダメな兄」の典型なのに、どこか憎めない。亡くなったあとも妹や元妻の“空想の中”に登場し、物語を動かしていきます。
同じ兄でも、誰の目線で思い出されるかによって印象がガラッと変わる。その微妙なニュアンスの違いを、オダギリジョーさんが見事に演じ分けているのが本当に素晴らしかったです。
だらしない姿も似合えば、タキシードで現れるシーンも妙にかっこいい。「この役は彼しかいない」と思わせる説得力があり、まさにハマり役。
優しさがにじむ、魅力的な人物たち
満島ひかりさん演じる元妻をはじめ、登場人物が皆、どこかあたたかい。決して明るい状況ではないのに、セリフの端々や仕草に、優しさやユーモアを感じ、観ていて心がほぐれました。
誰も完璧ではない。でも不器用なりに、誰かを思いやる気持ちは確かに存在する――そんな世界を見せてくれる。観終わると胸がじんわり熱くなる映画です。
原作「兄の終い」を読みたくなる
エンドロールが流れた瞬間、「原作を読んでみたい」と自然に思いました。
映画で描くことができる時間は限られているので、エッセイではどんな言葉で兄のことが綴られているのか、興味がわきます。
村井理子さんならではの視点と、映画には描かれなかった細やかな感情の流れを、ぜひ原作で味わってみたいと思います。

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