映画『私はあなたを知らない、』を鑑賞しました。
脚本・監督は、『湯を沸かすほどの熱い愛』『浅田家!』、そして昨年公開の『兄を持ち運べるサイズに』の中野量太さん。
作品を通して”家族”を描き続けている監督。今作もテーマは”家族”だと思うのですが、これまでとはちょっと違った印象でした。

主なキャストとあらすじ
主人公・夕平を演じるのは、坂口健太郎さん。夕平と想いを寄せ合うようになる紗月を演じるのは堀田真由さん。そして紗月の娘で、この物語を大きく動かす朝子を演じるのは早瀬憩さん。
天涯孤独で生きてきた夕平。毎日を決まったルーティンで暮らしているが、そのことに寂しさは感じていなかった。
ところが、職場で紗月と出会い、心を通わせるようになったことで変化が。
ある日、夕平は紗月から5歳の娘・朝子(幼少期を演じるのは倉田瑛茉さん)を紹介される。朝子はシングルマザーだったのだ。
紗月、朝子、そして夕平の3人での暮らしがはじまり、夕平ははじめて家族の温もりを知る。そして、朝子に「愛おしい」という感情を持つように。
一方で紗月は、朝子の未来を考え、生活を守るために、キャリアアップを目指すようになる。しかし、忙しさに追われる紗月は、朝子のことを夕平まかせにすることが増え…
夕平の朝子への愛情が増す一方で、紗月は夕平の行き過ぎた愛情を警戒するようになる。そして、ふたりの感情がすれ違っていき、ついに不幸な出来事が。
夕平、紗月、朝子の想いに感情が揺れ動く
夕平と紗月。出会いから不幸な出来事までの、ふたりの感情の変化が丁寧に描かれています。
スクリーンのふたりに引き込まれ、その行動や言葉に、時に「なぜ、そうなってしまうのか」とイラついたり、時に「でもわかるような気がする」と共感したり。
夕平の行動に恐怖を感じてしまうシーンはいくつもありました。特に、遊園地のシーンや運動会のシーン。でも、なぜか「そんなのだめでしょ」と完全否定する気持ちにはなれません。それはきっと、そのときの夕平の心情が、自分にも心当たりがあるから。
紗月が朝子の未来を考え、生活のためにキャリアアップを目指そうとすることは、女性であれば共感できる方が多いのかもしれません。そして、子どものことが後回しになっていくジレンマも。でも、共感しながらも、紗月のことをすべて肯定する気持ちにはなれません。
ふたりとも、不器用で、愛おしい。
朝子は夕平に別れを告げることになるのだけれど、それは夕平が嫌いになったのではなく、夕平の朝子への愛情の強さに恐怖を感じたからだと思いました。
そして、別れを伝えられても、夕平の朝子への愛情は断ち切れず… それが不幸をまねくことに。
時は過ぎ、聡明な女性に成長した朝子。夕平のことは覚えていませんが、祖母から聞いた話をきっかけに、真実を知りたいと思うように。そして、夕平と再会。
自分を不幸にした、でもかつては多くの愛情を注いでくれた夕平。夕平と向き合う朝子の、揺れ動く想いが切々と伝わってきます。
夕平、紗月、朝子。それぞれの想いに気持ちを馳せながら、自分の感情も揺れ動いていました。
『私はあなたを知らない、』の意味を考える
5歳だった朝子は夕平のことを覚えていません。だから、『私はあなたを知らない。』
でも、成長した朝子が夕平と会話を重ねたあとの「私はあなを知らない」は意味が違う。ここから新たな人生を歩もうという想い。そして、これからの人生には、さまざまな接続詞が続く可能性が。だから、『私はあなたを知らない、』なんだと。
― 私はあなたを知らない、だけど…
― 私はあなたを知らない、だから…
― 私はあなたを知らない、それでも…
このタイトルに未来を感じ、ラストシーンの映像と相まって、心が温かくなりました。
中野量太監督の最新作『私はあなたを知らない、』は、これまでの作品と印象は違いましたが、心に深く残る良作でした。
坂口健太郎さんの演技も素晴らしく、きっとこの作品が代表作になるのではないでしょうか。
観終わったあとも、長く余韻が続いています。
▶『兄を持ち運べるサイズに』の感想はコチラ 映画『兄を持ち運べるサイズに』――ダメな兄と、その家族のはなし
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